裁判員になったつもりで…

お盆も終盤ですね。いかがお過ごしですか?もしお暇でしたら「模擬裁判員」でもしてみませんか?さっき、判例データベースから、ありがちな交通事故(危険運転致死罪)の事案を拾ってきたので、自分だったら懲役何年にするか考えてみてください。ちなみに求刑(=検察官による「このくらいの刑が妥当だろう‥」という意見)は懲役5年です。

被告人は22歳の男性。新入社員歓迎会(+2次会、3次会)でウィスキーやら焼酎やらを6時間にわたって飲みまくる。午前2時30分頃、アルコールの影響で正常な運転ができないにもかかわらず車を運転。走行中、仮眠状態に陥り、赤信号で停車していた被害者(52歳・男性)の車に時速95〜115キロで追突。被害者は死亡。被告人は過去にも何度か飲酒後に運転をしたことがあったと認めている。

で、判決によると、この被告人には次のような酌量事由があるみたいです。

  • 本人は反省している。(「もう酒を飲まない」と誓っている)
  • 被害者側に謝罪し、示談が済んでいる。(保険金が5400万円支払われた)
  • 被告人は社会的制裁を受けた。(会社をクビになった)
  • 前科や逮捕歴はない。
  • 将来性があり、更正の可能性も十分にある。(22歳。まだ若い)
  • 両親が今後は一層の指導監督をすることを約束している。

…さてどうしましょうか?僕が1番興味があるのは、上の6つの酌量事由を裁判員(=市民)がどう評価するかという点です。
現在、裁判所は「若い」というだけで減刑するようなところがあったり、被告人が社会的な地位を失った場合に、「十分に苦しんだ」という理由で減刑することがよくあります(その意味では被告人に「優しい」あるいは「甘い」..)。しかし、上のような酌量事由って「それがどーした?!」で一蹴したっていいようなもんですよね?「オマエが絶対的に悪い。被害者には何の落ち度もない。同情の余地は一切ないっ!」と言い切っちゃってもいいと思います。特に本件は、新社会人になりたてのアホな若者が飲酒運転で人を殺した事件ですから、「自業自得ですね」のひと言で求刑通りにできそうです。でも実際の判決では上の酌量事由を考慮して、求刑より1年短い刑が言渡されています。ちょっとどうなんでしょうね。1年も短くできるような事由なんだろうか…?
法学部で勉強していると「どちらか一方が絶対的に悪い」という考えを本能的に避けてしまう傾向にあります。両者の言い分を足したり引いたりして「落としどころ」を探るようなことをしてしまいます。それが「バランスのとれた“正解”」であるかのような錯覚に陥ります。しかし場合によっては、その方がむしろ「偏ったバランスの悪い考え」なのかもしれません。そう思うことがたまにあります…