グロックスター連邦最高裁判決

なんか夜になると目が冴えるんですけど…。で、先日読んだ(と言ってもちゃんと読んだのは要旨部分だけなのですがね..) 「グロックスター事件」(MGM Studios v. Grokster)の備忘メモでも…
(※判決の原文(pdf)は こちら 。井上雅夫先生の手になる日本語訳は こちら 。)


まず、どういう事件なのか簡単に説明しましょう。大雑把に言うと、P2Pソフト(=ファイル交換ソフト)を頒布していたベンダー(=グロックスター社)に著作権侵害が認められたというものです。これのどこが問題か?まず、ソフトの「利用者」が音楽CD等をコピーして、それをmp3ファイルとかにしてP2Pソフトでネットに流す行為、これは明らかに著作権法違反です。でも、P2Pソフトを「作る」あるいは「頒布する」行為、それ自体は違法でも何でもありません。包丁で人を殺すのは違法ですが、包丁を作ったり売ったりする行為は問題にならないですよね。それと一緒です。だからソフトのベンダーは原則「お咎めなし」なんです。さて、原則として違法じゃないものを、どうにかこうにかして違法にするのが法律家の腕の見せ所(!?)です(←だからヘリクツこねるのが得意になるんですよ..)。アメリカの裁判官はどうやってベンダーを叩いたのか?

まずは原文から。

One who distributes a device with the object of promoting its use to infringe copyright, as shown by clear expression or other affirmative steps taken to foster infringement, going beyond mere distribution with knowledge of third-party action, is liable for the resulting acts of infringement by third parties using the device, regardless of the device's lawful uses.

何を言ってるのか?大雑把に言うとこんな感じです。つまり頒布者(本件ではGrokster社)が単に「このソフトを使えば利用者は著作権侵害も可能だなぁ..」とボンヤリ認識していただけなら、まぁ大目に見ましょう。でも明らかにそして積極的に「侵害し放題でっせ!」「違法コピーもできまっせ!」という風に著作権侵害行為を助長(=促したりそそのかしたりした)しつつ当該製品(本件ではP2Pソフト)を頒布したのならアウト。当該製品に合法的な使用法があったとしても製品の頒布者は利用者が行なった侵害行為の責任を負いなさい、ということ(←「なんでGrokster社が関西弁なんですか?」という質問は無視。雰囲気ですよ、雰囲気!!)。包丁屋さんに譬えると「はいはい、これを使えばアッという間に人が殺せまっせ!ちょっとそこのにーちゃん、買うてってや〜!」と積極的に殺人をそそのかしたら違法です、という感じかな?(←だから関西弁は雰囲気ですってば..)。


ちなみに日本でも[ファイルローグ]という似たような事件があります(←ゼミ合宿ではこの判決を扱う)。それとの違いは大きく3つ。1つめはソフトの仕組み。詳しい説明は省きますがファイルローグのP2Pソフトは「中央管理型」と呼ばれるタイプでした。それに対しグロックスターは「非中央管理型」と呼ばれるタイプを頒布していました(「非中央管理型」の方がベンダーの責任は追及しづらいです)。2つめはフェアユースアメリ著作権法には著作権を制限する一般条項として「フェアユース(fair use)」の規定があります。事実、グロックスター事件の地裁と控訴審フェアユースを認め(←「ソニーベータマックス事件」(Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc.)の基準が妥当するとした)、グロックスターは原則通り「お咎めなし」だったのです(それをひっくり返したのがこの最高裁判決という訳です)。日本にはフェアユースの規定がありませんからこの点の判断が問題になることはもとよりありません。3つめは間接的な侵害を認定している点。アメリカ法の場合、間接的な侵害に対しては「寄与侵害」という概念があって、個々の利用者ではなくベンダーを叩く場合にはこの概念で叩けます。しかし日本にはそういう法概念が存在しない(..と言い切ってしまうと間違いなのですがとりあえず無視)ので「直接的な侵害を擬制する(フィクション)」という形に持っていく必要があります(←この辺りのことを論じたのが僕の2コ上の先輩が書いた修士論文)。


[ファイルローグ]事件の「ヘリクツのこね方」についてはまた、目の冴えた深夜にでも…。こちらはこちらでなかなかのウルトラCをやってのけてる気がします(それほどでもないか..??)。