液体収納容器 2審(キヤノン・インクカートリッジ)を読む

「インクカートリッジ(=インクジェットプリンタのインクタンク。液体収納容器)の特許権が用尽しているか?」が問題とされた[液体収納容器2審](知高平18・1・31 判決文 )を読みました。以下、「物の発明の用尽」について判断した部分についてちょっと感想でも。 (興味がおありの方はご笑読ください..)
 

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※「そのうち 《企業法務戦士の雑感》 さん (FJneo1994 様)が感想を書かれるのではないかなぁ…」と思っていたので、それを拝読してからアップしようかと思ったり…(笑)。

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060207/1139328698
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060208/1139333675

 
※追記(2月10日)
>FJneo1994 様
TB、ありがとうございました。本来でしたらこちらから先にTBしなければいけないところ、大変失礼致しました。「勉強になりました」と言われると、顔から火が出るほど恥ずかしいです。むしろ僕の方が《企業法務戦士の雑感》から勉強させて頂いております(評釈、毎回楽しみにしております)。指導教授の顔に泥を塗らぬよう、もっと精進(消尽??)しようと思います。
 
※追記(2月14日)
本件は上告された模様。(http://it.nikkei.co.jp/pc/news/index.aspx?i=2006021304501da
 

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【類型化】
で、感想なんですが、まず「類型設定とその類型下で考慮すべき要素を丁寧に書いているなぁ…」というのが第一印象。考慮要素の中身はそれほど目新しくないけど(新聞報道では「地裁の判断を否定し独自の判断基準を確立した」とされていたが、それほど斬新な基準が提示されたわけではないと思う。[写ルンです]以来、述べられてきた考慮要素・理由以上のことは述べられていない気がする…)、従来は、結局のところ「総合的に考慮…」と判示されていた部分を丁寧に検討し、当てはめていると思う。
 
【 「本質部分」 とは】
問題は「特許発明の本質部分」の判断で、ここが1審・2審で結論が分かれた部分みたい(勝敗の決め手になった)。1審は発明の「構造」に着目し、「本件発明においては構造が重要であり、構造はインクを使い切ったあともそのまま残存している。インクの充填は(クレイムの)構成要件の一部を構成しているが、インクそれ自体は特許された部品ではない」とし、「インクの再充填行為」は(クレイムに書かれていたにも拘わらず)それほど重視されていない。対して2審では発明の「機能」に着目し、「インクの費消によってクレイムの構成要件が欠け、それがインクの再充填によって復活(=空気の移動を妨げる障壁が再形成され、それがインク漏れの防止という機能を発揮する)するから、発明の本質部分を構成する部材の加工・交換である」と判示している。なお、2審ではインクの再充填行為は第1、第2の両類型中で、2回にわたって判断されているようだ。「第1類型」ではいわゆる「リサイクル・環境保護」の点などから(クレイムされている密閉構造への穴あけ行為を容認してまで)、「インクの再充填は問題ナシ」とし、「第2類型」では上記の通り「問題アリ」としている。
…まぁ「そういうものなんですっ!」と言われれば「そうですか..」と言わざるを得ないけど、「インクの再充填」ってそんなに重要なのか?という気はする。特許発明の本質が「課題の解決」なのだとすると、インクは「課題そのもの」であって、それを解決するのは(1審が言うように)「構造」のように思える。そもそも、クレイムの巧拙(=書き方次第)で「本質」が決まるのか?というシロウト感情もあり、なんだか腑に落ちない( 「クレイムは芸術だ」とおっしゃってた弁理士さんがいたりいなかったり… )。この点、(僕の誤読・誤解釈の可能性を恐れずに書くなら、)近藤弁護士の1審評釈は「クレイムの書き方の巧拙ではなく、発明の中身が重要」として1審を支持。対して角田先生の1審評釈は「裁判所はクレイムを軽視している」として1審に反対の模様。指導教授だと「インクは大部分ではないし、そもそも技術を見過ぎている点がおかしい」と批判されるのだろうか。
 
【消耗品】
「インクが消耗品である」という点(消耗品の交換)については第2類型ではなく第1類型(←訂正)で判断されている。乱暴に書くなら「消尽アプローチ」サイドの考慮要素であって、「生産アプローチ」サイドの考慮要素ではないとしているように読めた。この点、[ステップ用具](大地判平14・11・26)では「受金具(=消耗品)は特許発明の本質部分ではない」としていた(第2類型下っぽい..)。本件との関係で言うと、[ステップ用具]は「消耗品の交換は侵害にならない」と言っているのではなく、やっぱり「本質部分に当たらないから侵害にならない」と言っているに過ぎないということなのだろう。消耗品であっても(=本件ではインク)、「本質部分」ならやっぱり用尽しないということ。
僕が指導を受けている2人の先生は「消耗品」については特別の考慮(黙示的許諾の併用・契約による処理)をなさっている。これは読んでてちょっと分かりづらかった(特に 助教授の論文… )。助教授がいう「契約の成立」はちょっと現実的ではないので、要は(ご本人が論文中で自認するように)「消耗品ビジネスは諦めろ」ということなのかと…(??)。以前、「いや〜消耗品ビジネスなんてアコギですよぉ」と仰っていたのが思い出される。ただ「アコギ」ということなら、リサイクル業者だって負けてはいないわけで、ゴミ同然の「空っぽのカートリッジ」を拾ってきて、それに50円少々のインクを詰めて、750円で売ってるんですよ(!)。こっちだってアコギじゃないですかぁ?第一、「ゴミ」が出なきゃ「リサイクル」だってできないわけで、原告製品が売れる(=母体製品であれインクカートリッジであれ)ことが前提の商売だから、他人の褌で相撲を取ってるようにも見えますよね?(悪いとは言わないが…)。
 
【雑談】
以前、裁判官の方が研究会で「下級審(特に地裁)が何も言わないと、なんの議論も起きないまま『上告不受理』で終わってしまう」と仰っていた記憶がある。法分野として未開拓な知財においては「司法のしゃべりすぎ」はむしろ大切なのでしょう。というか、わざわざ大合議にしたのは「基準を統一する」という意味もあったのだろうから、論文か教科書のように消尽論を判示したのは期待通りかも。ただ、最高裁はどうするのかな?「せっかく知財高裁を設置したのだから、知財の基準統一は知財高裁さんを尊重しよう」となるのか「我々のフル・レビューはやっぱり必要だ」となるのか…?
なお個人的には原告に好感を持っているので(大田区下丸子の本社はカッコイイし、IXYを買おうかなぁと思ってるし、社長は次期経団連会長だし!)まぁいいかと。上告審に注目。