研究会の予習(1)

昨晩は次々回の知財研の予習など(← なぜ「次回の予習」じゃないのかは、分かる人には分かる(!?) )。とりあえず「講習会資料」事件(東地判平18・2・27)の判決文を読んでみた(「間接侵害」は後回し‥)。事案自体は比較的単純。被告会社(=Y1)の元従業員(=原告X)が被告団体(=Y2)の依頼で講習会用資料集を作成。Y1らはXが講習会の講師を辞めた後も当該資料集を一部補訂の上、講習会で使い続けていたので、Xは「複製権侵害」「著作者人格権侵害(=同一性保持権・氏名表示権)」等を主張し、Y1らは「職務著作」を主張したという事案。以下「備忘メモ」的に感想など…。

  • 「職務著作」。「公表名義要件を満たしていない」として否定。権利の帰属については「条文の要件を満たしていないんだから仕方ないよねぇ…」という印象。問題はその行使をどうするか(=「認める」か「制限する」か)。この点、判決はXの「黙示の許諾」を認定して複製権侵害を否定。「柔軟な運用」を求めるなら、条文で要件がカチッと決まっている「権利の帰属」より、当事者の意思解釈である「許諾」の方が動かし易いんだろうなぁ、という気がする。本件の場合、著作名義とおぼしき表示としてY2の名称が付されている模様。しかし判決文を読む限り、Y2はいわば「出版社」(=「講談社」とか「岩波書店」のような発行者・発行社)のような印象を受ける。「原稿を依頼し、受け取って、それを発行する」イメージ。Y2に権利をズラすのは「ちょっとキツイなぁ」というのが個人的な感想。(←「○○工業会 監修」とか書いてあると、ちょっと心が揺れるけど…)
  • 「同一性保持権」。問題となった15箇所の修正部分につき、全て侵害を否定。講習資料は「最新であることが要求される」から修正は「やむを得ない」(20条2項4号)と言ってみたり、「表現を平易にしたものに過ぎない」から「改変に当たらない」と言ってみたり…。従来の裁判例からするとかなりユルい気がする。具体的な当てはめでも、最新情報の付加はさておき(=講習の実体を知らないので、「やむを得ない」情報付加なのかどうか僕には分からない‥)、平易化については「これって平易化か?」と思えるような部分が見受けられる。
  • 例えば、「2〜3年後にはビル全体のネットワークの主流の一つとなることは容易に想像できる」という文章を「2〜3年後にはビル全体ネットワークの主流の一つとなる可能性もある」と修正することを「平易にしたに過ぎない」と判断し、侵害を否定している。しかし、前者の文章が「必ず主流になる」というニュアンスなのに対して、後者の文章は「主流になるかもしれない」というニュアンスになり、文意が変わっているように思える。また「…オープン化の潮流は止めようがない事実として受け入れることが大切である。」という文章を「…オープン化の潮流はますます大きくなるものと考えられる。」と変えたからといって、それほど平易になったとも思えない。必要性が低い修正なら原文を尊重してできるだけ控える必要があると思うし、そもそも同一性保持権の下で「平易にすることは改変に当たらない」と言い切ること自体に無理を感じる。
  • もっとも、本件は(仕事で作った講習会資料なので、)X自身もY1、Y2の「文章チェック」が入ることは織り込み済みで執筆していたはずだし、実際にチェックを求めに行っている。複製権について「黙示の許諾」を認定したように、事案限りで、著作者人格権の不行使についても「黙示の同意」を認定できたように思える。
  • ざっくばらんな言い方をすると、本件は「条文通りにやると被告らが困ったことになるので、そのへんの利益衡量をどうしましょう?」ということだと思う。とりあえず、やり方は2つあって、①:「条文を柔軟に解釈する」か、②:「当事者の意思を柔軟に解釈する」のどちらか。裁判所は財産権侵害サイドで②の立場を取り、人格権侵害サイドで①の立場を取った。「どちらも②でいけたんじゃない?」というのが僕の印象。ただ、どちらが正しいということもないと思うし、なかなか難しい。

次回、「研究会の予習(2)」は「特許権の間接侵害」について書く予定。(あくまで「予定」)