元気出していきましょう…?!

11月14日の事件(@学部ゼミ)は東地判平18・2・24[PTPシート(対大正薬品)]らしい。僕は写真を撮りに行くだけなので、もとより予習する気はサラサラないのですが(笑)、まぁ「どういう事件なのか?」くらいの下調べはしておこうかと。どうやら製薬会社のエーザイ後発医薬品メーカーを片っ端から訴えていった事件らしい。その数、12社(!!)。メンドーなので、原告(エーザイ社)のプレスリリースだけ読んでみる。

  • 2005年3月24日付(提訴について):こちら
  • 2006年1月13日付(1審判決について):こちら
  • 2006年9月27日付(控訴審判決について):こちら

エーザイが販売していたのは『セルベックス』という名称の胃潰瘍の薬。カプセルと細粒があるみたいだけど、裁判になったのはカプセルの方。エーザイは「緑と白のカプセル」で販売していたのだが、被告12社が全てこれと同じ色のカプセルを採用したのでアタマにきたんだろう(たぶん…)。ちなみに被告商品の外観写真(pdfファイル)はこちら。これを見ると、確かに(一般的な意味においての)「紛らわしさ」はあると思う*1。プチッとシートから取り出してカシャカシャと12粒を混ぜられたら、多分、どれがどれやら分かるまい*2 *3
しかし、(薬に限らず)商品というものはその外観(=形状とか色)で識別するものではなく、商品名(=『セルベックス』)で識別するのがフツーだろうから、相手方の商品名が(例えば)『セベルックス』とか『セルベクス』のように原告商品と名称の点で紛らわしいのなら格別*4、「カプセルの色がソックリなんです!」というだけでは、よほどのことがない限り*5、ほとんど勝ち目はないものと思われる*6
本件との比較で面白いのは大地判平18・7・27[正露丸]かもしれない*7。「ラッパのマーク」にしか自他識別力を認めなかった判決だったはず。本件とでは需要者の点*8や、商品名の点*9で事情を異にするが、多くの部分で参考になると思われる。
本件とはあまり関係がない事情だが、原告のプレスリリースによると、『セルベックス』は特許を取得する段階でも他社とモメていたらしい(※こちら*10。もしかしたら「テプレノンを有効成分とする薬」それ自体は特に「画期的な発明」という訳ではなかったのかもしれない。だとすると「テプレノンを独占しやがって!」「さっさと切れろ!」的な空気の中、エーザイは特許出願時から業界の総スカンを食らっていたのかもしれない。
エーザイの企業キャッチコピーは『元気出していきましょう エーザイらしいので、負け戦で傷心状態*11の同社には、その言葉をソックリ返してあげたい…(苦笑)*12

*1:逆に「ありふれた形態」であることの証左になるかもしれない。

*2:もっとも、このpdfは原告が作成したものだから、そう見えるように撮っているだけかもしれない…w。

*3:どれを飲んでも有効成分が同じなので、効能はほとんど変わらないけどね…。

*4:プレスリリースによると『セルベックス』は登録商標らしいので、この場合はむしろ商標権侵害になるはず。

*5:形状・色彩につき、周知性や特別顕著性等がない限り。

*6:「周知性」「類似性」「混同の恐れ」といった実質判断に入る以前に、「そもそも商品等表示ではない」といった理由で門前払いされるのが関の山…。

*7:学部ゼミではこちらの事件も扱う模様。

*8:セルベックス』の需要者は処方箋を書く「医者」がメイン。一方『正露丸』は大衆市販薬なので、需要者はフツーの「一般市民」。

*9:正露丸]は商品名も同一(だけど普通名称っぽい)。一方、本件は『セルベックス』対『セルテプノン』。

*10:もっとも、こういうことは医薬業界では「日常茶飯事」、「業界のジョーシキ」なのかもしれない。

*11:裁判で負けるは、弁護士費用は高い(12件分!)は、製品の売れ行きは落ち込むは…と散々な目に遭ってしまったわけでして…。こういう時、法務部って肩身の狭い思いをするんだろうか?あるいは「経営層からやれって言われたので仕方なくやっただけ…」ってことなのかも…(?)

*12:でもIRを見る限り、同社は右肩上がりで成長してるっぽい(!)