「PbyP」についての備忘メモ

今日の院ゼミは「PbyP」。PbyPについては以前、このブログ中でもチャラっと紹介したことがある(※こちら)。予習したところ、審査の場面でも侵害の場面でも、(原則として)「物質同一説」(←「最終的に出来上がった物質(=プロダクト)が同一であれば、製法(=プロセス)が異なっていても、権利の範囲内である(=クレームに含まれる)」という説)で一貫しているらしい。もっとも、この点に疑問があるので、以下、備忘メモ。
 

〔当初の疑問〕

  • 疑問は単純。「どうして『物質同一説』でなければいけないのか?」ということ。【必然性】がよく分からない。動画上での説明を僕が理解したところでは・・・、
    • 出願人は審査の場面ではクレームが狭くなるように「製法限定説」的な主張*1をする。しかし、反面、侵害の場面では、クレームされた製法以外の方法で製造された物質に対しても権利を主張する。
    • これでは審査の潜脱になる(←「狭い審査」で「広い権利主張」を認める帰結になってしまう)。従って、審査の場面でも「物質同一説」で、クレームは狭く、厳しく見ましょう、と。
    • つまり、侵害の場面で権利者が「物質同一説」を主張することを見越して、それなら審査の段階でもクレームを広く解釈し、厳しく(=なかなか特許されない方向で)見ていくのがいいでしょう、ということなんだろう。
  • しかし、これはよく分からない。「審査の場面で『製法限定説』的な主張をするなら、侵害の場面でも『製法限定説』で解釈する!」というスタイル、つまり「審査も侵害も『製法限定説』で統一する!」というやり方でもいいような気がする。「物質同一説」で統一しなければいけない【必然性】が分からない。
  • ちなみに、侵害の場面で「物質同一説」を採用する理由は、(動画の説明では、)「審査(特許庁)が『物質限定説』でクレームを解釈しているので、侵害(裁判所)も一貫させましょう」ということらしいから、逆に審査段階で「製法限定説」が採用されているなら「製法限定説で一貫させましょう!」という帰結もアリのように思える。
  • なお、「侵害の場面で(も)物質同一説が取られている」とは言っても、実際にクレームされた方法以外の方法で製造された物質に対して、権利行使が認められたケース(=つまり侵害が肯定されたケース)というのは無いらしい*2。それなら、実のところ、「製法限定説」の帰結と大差が無いように思え、やっぱり、審査の段階から一貫して「製法限定説で行きます!」という態度でもOKなのではないかと。
  • もっとも、この場合はPbyPのクレーム解釈だけ「特別扱い」してる嫌いがあるから、助教授の指摘する通り、「そもそも何が『PbyP』なのか?」が曖昧な状態では、採用しづらいのかもしれない(発明カテゴリをドグマ視する立場をとった場合はなおさら「製法限定説」は採用しづらくなるだろう)。

〔ゼミ後…〕
特許庁が「物質同一説」を採用する理由は2点。

  • 1点目。「発明カテゴリ」のドグマ。発明を「物」と「方法」の2つに限定して考えると(2条3項)、「物の発明なんだから『物質同一説』でしょ?!」と。もっとも、2条3項は「実施」の定義に過ぎないのであって、発明の本質を定義したものではないから、所詮この区分けは「ドグマ」でしょう、と。
  • 2点目。「疑わしきは出願人の不利に」。PbyP的なよく分からないクレームが来たのなら、厳しく見て、(一端は)拒絶してみよう、と。拒絶を打つことで出願人は色々と説明してくれるから、その方がよいだろう。
  • なお、東京高判平14・6・11[光ディスク用ポリカーボネート成形材料]は以下のように判示。「・・・いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形により特許を得ようとする者は、発明の対象を製法としないで物とすることを何らかの理由で自ら選択した以上、当該物は当該製法によって製造されたものに限られることを主張しようとするなら、そのことを出願に係る明細書において明示すべきであり、それをしないで、明細書の記載を他の解釈の余地を残すものとしておきながら(例えば、侵害訴訟において、当該発明の対象となる物は、当該製法によって製造されたものには限られない、等の主張をすることが考えられる。)、このような主張をすることは、許されないというべきである」。

・・・フムフム。

*1:「他の方法で製造された物質はクレームには含まれないんですよ〜!」という様な主張。こう主張することで審査が通り易くなる。

*2:侵害の場面で「物質同一説」を採用したところで、禁反言等でクレームを限定的に縮小解釈すると、結果として非侵害の帰結になってしまうらしい。