たまには勉強…

天気のいい日曜日。ユルユルとお昼頃起床して、メールをチェックしたら行政書士の大塚先生がお書きになっているメルマガ『著作権判例速報(@まぐまぐ)』が届いていた(=メルマガの登録はこちら。大塚先生のブログ『駒沢公園行政書士事務所日記』はこちら)。大塚先生のメルマガとブログは速報性があり、コンパクトに事案を紹介されているのでいつも楽しみにしている。今回は特許権の侵害警告文書が不競法2条1項14号に当たるとされた事案をご紹介されていた(知財高判平18・6・26[動く手すり2審]。原審は東地判平17・12・13。大塚先生のエントリーはこちら)。「このテーマ、研究会で扱ったような気がするなぁ〜」とボンヤリした記憶のまま検索をかけたら、瀬川信久「知的財産権の侵害警告と『正当な権利行使』―近時の裁判例をめぐって―」(知的財産法政策学研究9号111頁(2005年))を発見。当該雑誌は研究室に 飾って あるので「読みに行くかぁ..」ということで午後から出勤。

瀬川論文によると、

  • 侵害警告文書が信用毀損に当たるか否かは、従来「過失論」の枠組みで判断されていた(=警告者(つまり権利者)に過失があれば賠償責任を負う)。
  • しかし、(大塚先生もエントリー中でリファレンスされている)東地判平13・9・20判時1801号113頁[磁気信号記録用金属粉末1審]、東高判平14・8・29判時1807号128頁[同2審]以降、「侵害警告が正当な権利行使の一環であれば責任を負わない」とする裁判例が出されるようになった(「権利行使論」)。
  • もっとも、「権利行使論」は(現在の裁判例を見る限りでは)「過失論」を覆し、それに取って代わるものではない。すなわち、「警告者が権利の無効・非侵害を知りえた(=過失がある)が正当な権利行使ゆえに責任を否定する」とか、「知りえない(=過失が無い)のに不当な権利行使ゆえに責任を肯定する」という程、強いものではない。「権利行使論」は(いまのところ、)「過失論」を補充するものに過ぎない。
  • ただ、権利行使の判断につき、次のような基準をみることができる。すなわち、①:警告者の責任が否定されるのは、警告の目的が侵害の有無の問い合わせである場合と、警告内容が製造販売の中止を要求するものであっても司法手続を伴う場合である。②:警告者の責任が肯定されるのは司法手続を伴わない製造販売中止要求であり、かつ被警告者の適正な判断を侵害(=騙す、脅す)した場合である。
  • 「権利行使論」が採用されるケースは特許権や、(著作権であっても)ソフトウェアなど技術的なものが多い。技術の高度化により、事前の交渉が増え、交渉における告知態様を考慮して警告者を免責させる法理として「権利行使論」が現れたことが背景にあるのだろう(「交渉型告知」の免責)。
  • 「権利行使論」の下で逸失利益の賠償が認められることはほとんど無く、信用損害・弁護士費用のみ認容するケースがほとんどである。逸失利益の賠償は専ら「過失論」の下で認められている。
  • 不当保全処分において「権利行使論」により免責される余地は無いと考えられる。

…ということらしい。(たぶん…)

本件(=[動く手すり])の先例的な価値は(僕の読み方がトンチンカンな可能性を恐れずに書くなら)、逸失利益を「権利行使論」の下で認定した点かもしれない。瀬川教授の裁判例分析によると、従来「権利行使論」の下では逸失利益(取引機会の喪失)の賠償は認められていないらしい。しかし本件では、不競法6条の3(現9条)を使って、取引機会を逸した分も損害として認定されている。結果、3000万円という高額な賠償が認容されている点が興味深い(←瀬川論文に引用されている表によると、信用損害、弁護士費用のみでは200〜500万円程度しか認容されない)。もっとも判決は「過失論」の下で逸失利益を考えているようにも読めるし、「権利行使論」は(判決中で2条1項14号の該当性を検討する上で言及はされているものの)違法性阻却事由の有無においてのみ考慮されているのかもしれない。いずれにせよ「不当な権利行使なので逸失利益も認めます」と述べている訳ではないので、先例的価値があるのかどうかはよく分かりません。

以上が僕の感想。多くの点で勘違いがあると思われますので、ぜひ原典でご確認下さい☆
 
【参考】

  • 瀬川論文(pdfファイル):こちら
  • 東地判平17・12・13[動く手すり1審](pdfファイル):こちら
  • 知高判平18・6・26[動く手すり2審](pdfファイル):こちら