川原健司「引用の適法要件」

川原健司「引用の適法要件」(東京大学法科大学院ローレビューVol.1 56頁(2006年) ※pdfはこちら)を読みました。同論文の趣旨は、(僕が理解したところでは、)以下のようなものです。

  • 引用の要件として、判例から、①「明瞭区別性」と②「主従関係」の2つが導かれる。「著作者人格権の不可侵」を要件とするのは適当ではなく、最判昭55・3・28[パロディ=モンタージュ]が「著作者人格権の不可侵」を要件として挙げたと解するのはミスリーディングである。2要件の根拠は引用の制度趣旨に求めることができ、「奨励に値する創作」の最低条件として①・②を位置づけることができる。
  • もっとも、①・②の要件は条文の文言から乖離している。昨今、その点を指摘し、条文の文言(=より具体的には「正当な範囲内」の文言)に立ち帰って、引用の成否を判断すべきだという主張がなされている。しかし、(条文に帰ったところで)32条の文言は抽象的であるし、抽象的であるのは基準の形成を判例の蓄積に任せたものとも言うことができる。判例から導かれる「実質的要件」と条文から導かれる「形式的要件」の双方の調和を図ることが肝要である。従って、「判例からの要件論」(=①・②)と「条文からの要件」(=③「公正な慣行」、④「正当な範囲」)、計4つを要件とするのが適当である。
  • ①・②は32条1項前段の「..引用して」を成立させるのに必要な条件(必要条件)である。②は規範的評価的要件であり、引用の成否に当たって大方の勝負をつける重要な要件である。③・④も規範的な要件であり、②で拾い切れない事項を拾う「調整弁」的な位置づけとなる。

【関連条文】著作権法32条1項:公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

…おそらく、以上のような趣旨なんだろうと思われます(たぶん..)。先の私のコメント(※こちらの5つ目)に、いささか早トチリな批判がありましたので、お詫び申し上げます。申し訳ありません。引用(32条)は仰る通り「判例と条文」(=「実質論」と「形式論」)が交錯している印象があったので、その点は勉強になりました。うまく言えませんが、全体的に「実務家っぽい文章だなぁ〜」という印象です。なんだか弁護士さんの準備書面を読んでいるような気分になります。ロースクールの教育効果(要件事実論?)なんでしょうか..
…というかこういう「ダイジェストもどき」を作ること自体、引用に当たらないとされれば、問題視されかねないなぁ、と…。(戦々恐々..)