審判で審理されなかった無効理由

7号がらみの評釈を読む。特に難しい評釈ではない。評者の主張は簡単で、要は「本件は4条1項7号ではなく15号で処理すべき事案だ」ということ。んで、(ここから本題なのですが)どうして裁判所が7号ではなく15号で処理したのかの説明として、評者の先生は次のように言う訳です…。

…けだし、審決取消訴訟の審理範囲は、審決の判断理由に限定されるものであり、審決が商標法4条1項7号についてしか判断していない以上、裁判所が審決に触れられていない他の理由について審理することは許されない。(以下略)

おぉ!この前の面談で教授に指摘された点ではないか!
 
…こんな感じ。

(教授)『…で、なんで19号じゃないの?』、 (僕)『審決で7号しか審理されなかったので、知財高裁では7号しか争ってないんです』、 (教授)『いや、その通りなんだけど、その辺りをちゃんと書くなら[メリヤス編機]を引かないと。まぁ註で触れる程度なので、大渕さんの論文まで読む必要はないけど…』、 (僕)『(ウッ…)そうなんですか?』、 (教授)『註釈では触れる必要がありますよ。5〜6行程度で。書く労力の割にはあまり注目されない註ですけど。でも、そういうキメの細やかさが評釈には大切なんですよ』、 (僕)『・・・はい』

というわけで(ブログのどっかに書いたと思ったら書いていなかったので)、軽く復習。

  • 『審判で審理された無効理由に係るもののみが審決取消訴訟の審理範囲となる』というのが最大判昭51・3・10[メリヤス編機]*1の立てたテーゼ。その根拠として一般には、「訴訟の前段階で専門官庁による慎重な審理判断を受ける利益」が挙げられる。「裁判所で法律の専門家が判断する前に、特許庁で技術の専門家による判断を仰げ」ということ。
  • しかし最近、この点を見直す議論が有力になりつつある。特にキルビーを経て、特許法104条の3ができて以降、無効審判の前置経由がなくとも裁判所レベルで特許権の効力を否定することが可能となったのだから、「専門官庁による慎重な審理判断を受ける利益」といったものを法解釈として導くことは一層難しくなったと言える。
  • 審決取消訴訟について熱く(?)語った本として大渕哲也『特許審決取消訴訟基本構造論』(有斐閣・2003年 ※こちら)が挙げられる。まぁマニア向けの本ですけど…(笑)。

以上が基礎中の基礎のお話。おそらく指導教授は、以上の話を踏まえた上で、「その先の話」をしていた気がするけど、それは次回以降のテーマになるはず(今はまだ19号の検討には入っていないので…)。

*1:ちなみに知財の世界で大法廷判決はこの1件のみ!