なつかしの「部分社会論」…

「(大学受験の際に)年齢制限を理由にした合否判断は不当だ!」として56歳女性が群馬大を訴えていた模様。判決は請求棄却。
http://www.asahi.com/national/update/1027/TKY200610270192.html
判文が手に入らないので、記事レベルで判決をなぞると以下。

訴訟では(1)大学入試の合否判定が司法審査の対象になるか(2)年齢による差別があったか、などが争われた。松丸裁判長は、合否判定が裁判所の審理対象となるかどうかについて、「本来的には裁判所の審判権は及ばないが、年齢、性別、社会的身分などによる差別があったことが明白な場合は審判しうる事柄だ」と判断。そのうえで、「面接官が年齢を理由として差別したと認められない」と、訴えを退けた。

 
このタイプの事件で僕が思い出すのは最判昭52・3・15民集31-2-234[富山大学単位不認定訴訟]。初めて習ったのは学部1年の時だから(←担当教官はN村現総長!)、もう事件名しか覚えてないけど…(笑)。こんな判決だったみたい..(※こちら)。

・・・大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であつて、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、叙上説示の点に照らし、明らかというべきである。

結論として「単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。」とした。
どうも「一般市民法秩序と直接の関係を有するか否か」がメルクマールみたい。もっとも、この最判は「単位認定そのもの」についての判断であって「単位認定の方法」に対する判断ではない、と読めるので*1、だとすると、本件でも問題になるのは「合否判断の方法(=年齢で判断したこと)」ではなく、「合否判断そのもの」のはず。年齢差別の是非以前に「凡そ大学受験の合否判断に司法は口出しできないんですよ。合格者を誰にするかは(大学内部の問題であって、)市民秩序とは関係がないですから…*2」という切り方になるはず*3。その意味では記事の下の方で紹介されている90年の東京地裁判決の方が最判の判断に近い(ように思える)。
本件は最判や東地判90年判決から一歩進んで、「合否判断は一般市民法秩序と直接の関係を有しないが、その判断方法の中身によっては、司法が介入できる*4」と判示したってことなのかも…?(←こういう『領空侵犯』(©日本経済新聞w)は的外れなことが多いし、僕自身、よく分からないので自信ゼロ..) *5

*1:最判は「認定判断の方法」ではなく、「認定判断そのもの」が司法審査に馴染むかを問題にしているみたい。例えば「年齢20歳以下の者にしか、刑法Ⅰの単位は認定しない!」とハチャメチャな方法で単位認定をする教員がいた場合、最判が問題にしたのは、「年齢を基準に単位認定を判断することの是非(=不当性)」ではなく、そもそも「教授の専権で行なわれる単位認定判断行為に司法が口出しできるのか?」である。

*2:微かな記憶だけど、「市民秩序と関係がある」というのは、例えば「寺の住職(座主?)が単に宗教的な地位に留まるものではなく、宗教法人の代表でもある」という場合にその地位確認を求めるとかそういうケースだったはず…

*3:この場合、いかに年齢差別が(一般常識で考えて)不当であっても「門前払い」されることになる。

*4:「合格者の判定にいかなる判断を用いようが、裁判所はノータッチです」というのが従来の態度。合格者を「学力」で決めようが「年齢」で決めようが「顔」で決めようが、あるいは「一芸」で決めようが、その決め方について裁判所はアーダコーダと口出しはできないと。そこから一歩進んで、「年齢を基準に決定するのはダメです!(例えば「受験生は40歳以下の者に限る」という募集要項はダメ)」と裁判所が入試制度に介入できるということなのか?

*5:【追記】読売新聞によると、「(大学側が)「医師には知力・体力・気力が必要」などと説明していたことについて(裁判所は)「合理性がある」とした。」となっている(※こちら)。しかし、これはあまり説得的ではない。この考えが正しいなら医師には定年制が必要だろう(「医師免許は70歳で停止する」とか)。運転免許だって同じようなことが言えるが(←運動神経や判断力が必要だろう)、「年齢が高い」というだけで、受験資格は剥奪されない。要は医師国家試験(や運転免許試験)の段階で不合格にすればいいだけの話であって、医学部(や自動車学校)の入学段階で考慮する問題ではないと思われる。